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芸能記者(ペン&カメラ) 志和浩司

黒いスーツのサンタクロース、ありがとう

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20131130_cupidmagic0032-2「黒いスーツのサンタクロース」と出逢ったのは、1988年のことだった。まだ時代はギリギリ、昭和。この年の1月に銀座みゆき館劇場で初演された。

どんな年だったのだろうか。元日から、ソ連でペレストロイカが始まった。翌2日には、昭和天皇が皇居で手術後初めての一般参賀へお出まし。昭和天皇にとり最後の新年一般参賀となった。5日には、六本木のディスコ「トゥーリア」で照明落下事故が起きた。9日には劇団民藝の宇野重吉さんが亡くなった。「黒いスーツのサンタクロース」は、そんな中、初演されたのだった。2月にはカルガリーオリンピックがあった。3月には青函トンネルが開通し、東京ドームが完成。4月には瀬戸大橋が開通した。そして、「オペラ座の怪人」が日本初演。5月には元おニャン子クラブの高井麻巳子が秋元康氏と結婚した。9月に入ると元祖グラビアアイドル堀江しのぶさんがガンのため23歳の若さで亡くなった。ソウルオリンピック開催とB’zのデビューも同じ時期だ。

そんな年、25歳の私は相変わらず週に最低でも2回は舞台を観ていたと思う。「ぴあ」や「シティロード」で面白そうな公演をチェックし、チケットを買った。そして「黒いスーツのサンタクロース」と出逢った。

クリスマスイヴ、売れない女優のもとを愛想のいい死神が訪れ、近々あなたはお亡くなりになるのだと告げる。「私はこの世が好き、いい思い出もいっぱいあるの」-彼女の必死の抵抗に、少しの間だけ、死神は彼女の死に際をのばしてくれる。そして、そのとたん彼女を襲う事件の数々に、死神も一緒になって立ち向かう。……そのストーリーが、自分の人生と重なった気がした。勤めをやめて独立したのはいいが、まったく仕事がなく借金だけがたまっていく。アパートの家賃は工事現場やデパートの駐車場で交通誘導をするガードマンの仕事や、引っ越しの手伝いで、なんとかしていた。そういうバイトは、日払いで金がもらえたから、演劇を観に行くことができたのだ。あの頃、週に2回も3回も観劇に行っていたのは、現実逃避だったのではと思う。毎日を生きているという感覚はなく、一日一日を延命しているような心持ちだった。死神と同居しているような日々を送っていたのだ。

「黒いスーツのサンタクロース」で作・演出の田窪一世さんが演じる死神デニス・グッドは、とにかく優しい。死神のくせに、自身の存在をかけてまで、情にほだされてしまうのだから。

終演後、しばらく動けなかった。本当に感激すると、泣きたいのか笑いたいのか、嬉しいのか悲しいのか、よくわからなくなる。とめどなく襲いかかってくる感情の激しい波に、身体が水に浸かったスポンジみたいに重いのだ。でも、受けとめたその重さを懸命に咀嚼しようとしているうちに、だんだん、気持ちが軽くなってきた。この世の中も捨てたもんじゃない、と思えた。新しい毎日を生きて行こうと、自然にそんな気持ちになれたのだ。

翌年、時代は平成に変わった。私は7月に結婚した。私の人生も変わった。

あれから25年。「黒いスーツのサンタクロース」は途中、何度か観る機会があったが、今回、5年ぶりの上演ということで、新たな気持ちで劇場へ出かけた。細部には変化もあるが、基本的には25年前から同じ。妻と観る「黒いスーツのサンタクロース」には、25年の歳月がつまっていた。いつまでも色褪せない、素敵なひとときだった。

舞台は終わっても、観た人の人生に残り続ける…って、本当だなと思う。でも人生に寄り添い合ってくれる作品は、そんなに多くはない。この歳になってこう言うのもなんだが、また新しく生きていける気がする。

黒いスーツのサンタクロース、ありがとう。

 

座キューピーマジック公式サイト

http://www.geocities.jp/cupidmagic722/

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Written by 志和浩司

2013/12/01 @ 5:35 am

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